タイヤチェーンが義務化に!理由と背景は?
タイヤチェーンの義務化が2018年12月に施行されました。その理由と背景について細かく解説しております。そしてこれからの冬の時期に道路を走行する上で、例えば大雪になった際に用意すべき点とは、必見です。
2018年11月15日に国土交通省と警察庁が、大雪警報が発令される際に、立ち往生が懸念される高速道路や国道といった幹線道路の区間において、全ての車に対してタイヤチェーンの装着を義務化することを決定しました。また、省令の公布と施行は2018年12月14日になされました。決定から施行までわずか1ヶ月程度という短期間だったため、豪雪地帯には困惑の声も広がっているようです。
これまでも大雪時の高速道路や国道においてはチェーンの装着義務化がなされる「全車両チェーン装着規制」がなされてきました。
この規制と今回の省令改正はどのように異なるのでしょうか。また、なぜ決定から1ヶ月という短期間でチェーン装着の公布・施行となったのでしょうか。各種メディアは省令改正が実施されたことを報じていますが、その背景まではあまり解説されていないようです。
今回は省令によって定められるタイヤチェーン装着の義務化と、なぜ今回のスピード施行となったのか、その背景について解説します。
目次
義務化によってこれまでと何が違うのか
これまでも大雪時の高速道路においては、特定の区間において緊急措置として「全車両チェーン装着規制」という全ての車にタイヤチェーンの装着を義務化する規制が存在しました。規制実施は、高速道路会社や高速道路警察隊の巡回の結果、「夏用タイヤでは不足すると判断された」場合になされていました。
今回の省令改正では、国土交通省と警察庁がタイヤチェーンの装着義務化を決定され、さらにタイヤチェーンの装着を義務づけていることを示す「タイヤチェーンを取り付けていない車両通行止め」の規制標識の新設も決定されました。
実のところ、タイヤチェーンの装着規制については各都道府県の公安委員会によって定められていたため、詳細が異なっていました。今回の省令改正は、国がタイヤチェーンの規制について明文化し、実施のための方策を決定した、という点が、従来と異なるところです。
また、タイヤチェーンの装着義務化に違反した状態で走行した場合、つまり規制がかかっている区域を走行した場合の罰も重くなっています。これまでは軽微な「過料」と呼ばれる、行政による罰が下されていました。金額はおおむね5,000円~7,000円程度で、法律上の刑罰ではありませんでした。
ですが、今回の省令改正後にタイヤチェーンの装着義務化に違反した場合には法律上の刑罰である「懲役あるいは罰金」が科されることになり、懲役は6ヶ月以下、罰金は30万円以下となります。省令は法律と同等の効力を持ちますから、今回のチェーン義務化は国が動いた、と言えるでしょう。
スタッドレスタイヤでは駄目なのか
スタッドレスタイヤは圧雪路面や凍結路面に対しては非常に効果的です。しかし、新雪が深く降り積もった路面に対しては残念ながら不十分です。雪をかき分けるようにして進む必要があるため、大雪の際には高速道路会社や自治体の判断によってチェーン装着が義務化されます。
国土交通省が「第1回冬期道路交通確保対策検討委員会」にて配布した資料によれば、冬タイヤ(スタッドレスタイヤ)を装着していても、坂の勾配が5%を超える区間では立ち往生が多く発生しているようです。
冬タイヤだけでは坂道を登り切れないということです。さらに、立ち往生してしまった車両のうち、冬タイヤを装着していてもチェーンを装着していなかった車両は9割弱を占めており、冬タイヤだけでは不十分であるという結論が下されています。
ちなみに、タイヤチェーンをそもそも持っていない車両が8割弱で、タイヤチェーンを携帯していたにもかかわらず装着していなかった車両は1割です。ドライバーがスタッドレスタイヤに信頼を寄せすぎていることが分かります。
なぜ決定から1ヶ月のスピード施行となったのか
スタッドレスタイヤでは大雪の道路や、勾配がきつい道路を走行することが困難であることは国土交通省が示した資料からも分かります。ですが、委員会による決定からわずか1ヶ月程度というスピード施行となったのか、という点については困惑の声が多く聞かれます。 実際のところはどうなのでしょうか。
まずは国土交通省が2018年11月15日に発表した、
チェーン規制等に関する改正案のパブリックコメントを開始します~「道路標識、区画線及び道路標示に関する命令の一部を改正する命令案」について~
という上記文書にて、改正の背景が説明されていますので、抜粋して引用します。
”大雪時における道路交通の確保を図ることを目的として、本年11月1日に国土交通省で開催された第4回冬期道路交通確保対策検討委員会で、大雪時の道路交通の確保のためにいわゆるチェーン規制を実施すべき旨が示されたことを踏まえ、道路標識、区画線及び道路標示に関する命令(昭和35年総理府令・建設省令第3号)の改正を行うことを予定しております。”
出典:第1回 冬期道路交通確保対策検討委員会 配付資料 – 国土交通省
http://www.mlit.go.jp/road/ir/ir-council/toukidourokanri/giji01.html
ここで「第4回冬期道路交通確保対策検討委員会」という文言に注目してみましょう。11月1日に「第4回」が開催されたということは、少なくともそれ以前に3回は検討委員会が開催されていたことになります。国土交通省のホームページを確認すると、それぞれの冬季道路交通確保対策検討委員会は以下の年月日に開催されていたことが分かります。
第1回:2018年2月26日
第2回:2018年3月28日
第3回:2018年4月23日
また、大雪時の道路交通確保対策中間取りまとめが、2018年5月16日、つまり「第3回」の検討委員会が開催された後に公表されています。
以上のことを見ると、2018年が始まってすぐに大雪に対する検討委員会が開催され、議論がなされていたことが分かります。省令改正の発表と施行まではとても短い期間ですが、議論と決定が拙速だった、というわけではないようです。一方で、2018年に入って省令改正の対策委員会が設けられたことには理由があるようです。
2018年の1月22日、関東地方にて記録的な大雪が発生し、首都高速道路で大渋滞が起きました。1月22日から1月26日にかけて通行止めや立ち往生が発生し、首都高速道路の社長が謝罪会見を開いたほどです。
2018年の2月6日には北陸地方に記録的な大雪が発生し、国道8号における福井県と石川県の県境付近で最大1,500台もの車が立ち往生しました。
災害対策のプロである自衛隊が派遣されたにもかかわらず、立ち往生は1週間も続き、一酸化炭素中毒や凍死による死者が出るなど、痛ましい事態となりました。各メディアが大々的に報道したこともあり、記憶に新しい方も多くいらっしゃることでしょう。
ここで、国土交通省は「大雪に対する国土交通省緊急発表」を2018年の1月21日、1月23日、2月2日の3回にわたって実施し、不要不急の外出を避けるよう求めるほか、運転時にはタイヤチェーンの装着を促すなど、ドライバーへの注意喚起を図っています。
緊急発表は上記の大規模な立ち往生が発生する前に実施されたものですが、残念ながら有効だったとは言えず、死者を出してしまう大惨事となってしまいました。
さて、「第1回冬期道路交通確保対策検討委員会」にて配布された資料によれば、近年は雪の降り方が昔と異なってきているようです。年間の降雪量はおおむね横ばいで、昭和54年度に比べると平成28年度はむしろ降雪の深さは少ないのですが、24時間降雪量が多い日が増大しています。
また、積雪の深さが観測史上最高を更新する地点が三割以上にものぼっています。つまり、近年では大雪による交通への悪影響が起きやすくなっています。
以上のことを考慮するに、国土交通省は今年の大雪による災害を受けて慌てて対策を講じたのではないようです。国土交通省は近年の大雪の傾向を把握しており、これまでも緊急発表などによって事前の周知を試みています。しかしながら重大な災害が発生してしまったため、法規制による災害緩和を図った、というのが実際のところでしょう。
もちろん、省令改正が決定されてから国民の意見を広く募集する「パブリックコメント」の期間が11月15日から11月28日までと、短すぎた感は否めません。
豪雪地帯にお住まいの方々からは困惑の声が上がっていますし、カー用品店はタイヤチェーンの品揃えを急いでいるようです。対策委員会が開催される頻度がもう少し短く、今年の秋頃に義務化が発表されたならば、これほど混乱を招くことはなかったかもしれません。
まとめ
省令によって定められるタイヤチェーン装着の義務化と、なぜ今回のスピード施行となったのか、その背景について解説しました。
近年は、大雪が発生した際には昔より雪が深く降り積もる傾向があります。高速道路や国道といった幹線道路におけるタイヤチェーンの装着義務化には、この傾向を受けて国土交通省が緊急発表などによって対策を試みたにもかかわらず、効果が見られなかったことから、やむなく法律によって規制し、被害を少しでも押しとどめよう、という意図があるようです。
タイヤチェーンの装着義務化については、決定から施行までわずか1ヶ月と短すぎた感は否めませんが、ドライバーが冬期の道路を走行する際、大雪に備えてタイヤチェーンを用意しておくことは重要なことです。
「法律で決められているから仕方なく」ではなく、普段から実施すべき安全対策のきっかけとして捉えた方が建設的でしょう。