梅雨時に重視したいウェット性能について
タイヤの ウェット性能について考えてみたことはありますか。路面が濡れている場合、自動車の走行には大きな影響があります。雨天時は制動距離が伸びるために通常のドライブ以上に注意が必要です。おさえていただきたいポイントについて解説します。
梅雨時になると気になるのが雨天時の制動距離です。雨が降ると制動距離が伸びるというけれど、具体的にどれくらい伸びるのか、という点については明確に把握していない方も多いのではないでしょうか。
また、低燃費タイヤに表示されているウェット性能には a, b, c, d のランクが設けられていますが、ランクによってどのくらい性能が変わるのかという点も気になるところです。
今回は路面が濡れている際にタイヤが発揮する性能、ウェット性能について解説します。
目次
こんなに違う!雨天時の直線制動距離
JAF(日本自動車連盟)が、ウェット性能を検証するための実験を行っています。路面の状態が異なる直線道路でフルブレーキを行った際の制動距離は以下の通りです。
・晴天時の制動距離
タイヤの溝が新品の場合(溝深さ7.6mm)
時速60km:17.0m 時速100km:47.5m
タイヤの溝が半分程度まで減った場合(溝深さ4.7mm)
時速60km:16.3m 時速100km:44.1m
タイヤの溝が2割程度の場合(溝深さ3.1mm)
<時速60km:15.8m 時速100km:42.6m
・雨天時の制動距離
タイヤの溝が新品の場合(溝深さ7.6mm)
時速60km:16.7m 時速100km:47.6m
タイヤの溝が半分程度まで減った場合(溝深さ4.7mm)
時速60km:16.7m 時速100km:50.8m
タイヤの溝が2割程度の場合(溝深さ3.1mm)
時速60km:18.0m 時速100km:70.5m
意外に思われるかもしれませんが、晴天時はタイヤの溝が減るほど制動距離が小さく、つまり制止しやすくなります。これはタイヤの溝が減ることでタイヤの接地面積が大きくなるためです。ですが、雨天時となるとタイヤの溝と制動距離の関係は逆転します。
これはタイヤと路面の間に雨水が入り、接地面積が減少するためです。ここで、タイヤの溝は路面とタイヤの間に入り込んだ水を排水するために設けられています。
タイヤの溝は例えるなら水道管、あるいは側溝のような役割を果たしており、十分な溝が確保されているほどウェット性能が発揮されます。
特に注目したいのは時速100kmでのウェット性能です。タイヤの溝が新品の場合、晴天時も雨天時も制動距離にさほど違いはありません。タイヤの溝が適切に排水能力を発揮し、十分なウェット性能を発揮しているということになります。
ですが、溝が減るにつれて制動距離は大きく伸び、タイヤの溝が2割程度の場合は新品のタイヤに比べて1.5倍、数値にして30mほども制動距離が伸びています。以上のことから、タイヤの溝はウェット性能に直結していると言えるでしょう。
車の走行速度が増したり、タイヤの溝が少なくなったりすると、タイヤが水面に乗り上げて滑走する、いわゆる「ハイドロプレーニング現象」が起きやすくなります。この実験では詳細に検討されていませんが、時速100kmにおける制動時にはこのハイドロプレーニング現象が起きた可能性が高いと見て良いでしょう。
また、溝の深さにも注目したいところです。この実験ではスリップサインが出る溝の深さを「溝の深さゼロ」と見なしています。スリップサインが出る溝の深さは1.6mmと法律で定められていますから、溝の深さが2割程度(3.1mm)というのはスリップサインが出る溝の深さの倍ほどは溝が残っている、ということになります。
それにもかかわらず新品に比べて制動距離が大きく伸びるのですから、タイヤの溝の深さがいかにウェット性能へ大きな影響を与えているかが分かります。
どれくらい違う?低燃費タイヤのウェット性能ランク
低燃費タイヤ(エコタイヤ)は転がり抵抗を小さくすることで燃費の向上を図っています。単に転がり抵抗性能を小さくするのであれば、タイヤを硬くしたり接地面積を最小限に留めたりするなどして他の性能を犠牲にすればよいのですが、それでは安全性、特に雨天時のウェット性能を確保できません。
そこでJATMA(日本自動車タイヤ協会)は「転がり抵抗性能とウェット性能を両立しているタイヤ」のみを低燃費タイヤとして認定しています。
JATMAはメーカーがウェット性能を証明するための試験方法を厳格に定めており、タイヤメーカーは試験結果によって得られた「ウェットグリップ指数」をもとに、ウェット性能として a, b, c, d のランクを表示しています。
このウェットグリップ指数は「基準タイヤ」と呼ばれる標準的な材料および工程によって製造されたタイヤに比べて、雨天時にどの程度の制動性能を発揮できるか、という指数です。値はパーセンテージを表示しており、例えばウェットグリップ指数が150ならウェット性能は b であり、基準タイヤに比べて雨天時はおおむね1.5倍の制動性能を有する、ということになります。
実車両においてどれくらいウェット性能を発揮できるのか、という点についてはタイヤを装着する車両やABS(アンチロック・ブレーキシステム)の性能によって異なるため一概に「○○メートルの制動距離が得られる」とは言えません。
また、ウェットグリップ指数は「雨天時にどのくらい減速できるか」という指標であるため、制動性能が1.5倍になるからといって単純に制動距離が0.67倍に縮まるわけではありません。
一例としてブリヂストンによる実験の結果をご紹介します。実験によれば、時速100kmからフルブレーキを実施した場合、ウェット性能が「a」のタイヤに比べてウェット性能が「c」のタイヤは直線における制動距離が10m程度も伸びました。一般的な乗用車の車長は5m程度ですから、約2台分も制動距離が違うことになります。
なお、上述の実験では新品のタイヤが用いられています。序盤で述べたように、タイヤの溝が減ってしまえばウェット性能は極端に落ちてしまいます。ウェット性能の良いエコタイヤを履いているからといって安心せず、溝のチェックは定期的に行うようにしましょう。
空気圧にも要注意!適切なウェット性能を得るために
最近では高性能なタイヤが多く販売されるようになり、低燃費性能とウェット性能のどちらも最高ランクを獲得している低燃費タイヤも少なくありません。
ですが、いくら高性能なタイヤを履いていても適切に使用しなければタイヤの性能は大きく下がってしまいます。ドライバーが日頃から欠かさず点検するべきポイントとして、タイヤの溝の他に空気圧が挙げられます。タイヤの空気圧は時間と共に減少します。空気圧が不十分なタイヤは潰れるように変形するため、溝が浅くなりウェット性能を発揮できなくなります。
逆に空気圧が高すぎると接地面の中央だけが路面に接するため、同様にウェット性能を発揮できなくなります。
まとめ
今回はタイヤのウェット性能について実験の結果を引き合いに解説しました。タイヤのウェット性能に最も影響するのはタイヤの溝の深さです。タイヤの溝は雨水を排水する役割を担っており、溝が減ると急激に排水性能が落ちてしまいます。雨の多い梅雨時に溝が減っている場合には、スリップサインが出ていなくてもタイヤの交換を検討する価値があるでしょう。
また、低燃費タイヤのウェット性能ランクについても解説しました。ウェット性能のランクが高いほど、雨天時の制動距離は明らかに短くなります。ウェット性能のランクが高いほど雨天時でも安心して走行できることは間違いないでしょう。
ただし、ウェット性能のランクを過信しすぎてはいけません。ウェット性能のランクはあくまで新品の場合にタイヤが発揮できる性能を分かりやすく格付けしたものです。したがって、タイヤの溝がどれくらい残っているか、空気圧が十分かどうか、という点についてはドライバーが定期的にチェックする必要があります。
雨が降っている時ほど車を利用する機会は増えるものです。タイヤは安心・安全を第一に考えて選びたいものですね。