悩ましい!多面的かつ相反するタイヤの性能
タイヤの性能といっても比較するには運動性や静粛性、耐久性、制動力など様々な評価基準があります。相対する機能や環境により異なるものもありますので安全性を十分に吟味した上で、運転スタイルに合わせて選ぶことが大切です。
ひとくちにタイヤの性能と言っても、タイヤには様々な役割が求められるため、タイヤの性能を測る際の評価軸は様々です。安全性を第一に考えるのは当然のことですが、他にも付加価値として様々な機能を持つタイヤが販売されています。静粛性、耐久性、制動力、安定性、運動性、等々。また、例えば運動性と安定性は対になっている概念であるため、どちらに重きを置くべきか悩ましいところです。
今回はタイヤ選びの参考となる、タイヤの性能について解説します。
目次
タイヤの必須性能
様々な性能を持つタイヤですが、必ず考慮しなければならない性能として、ロードインデックスがあります。ロードインデックスとはひとつのタイヤが支えられる重さのことを示します。空気圧に対応した単位を持たない値であるため、直感的に分かりづらいかもしれません。タイヤのカタログにはロードインデックスと一緒に、kgで表記された負荷能力も一緒に示されています。車の重さに対してロードインデックス(負荷能力)を下回るタイヤを装着することはできず、車検をクリアすることもできません。車検においては車両総重量を4で割った重さのロードインデックスを上回っており、かつ前軸量と後軸量を2で割った重さのうち重い方のロードインデックスを上回っている必要があります。車検証を見ると、タイヤが満たすべきロードインデックスを産出することができます。例えば車両総重量が3,200kgであり、うち前軸量が1,800kg、後軸量が1,400kgだったとしましょう。車両総重量を4で割ると800kg、前軸量と後軸量のうち重い方を2で割ると900kgですから、ロードインデックスは負荷能力900kgを上回る数値である必要があります。負荷能力は空気圧によって異なりますが、装着したいタイヤの指定空気圧が240kPaである場合、日本自動車タイヤ協会が示すロードインデックスは104以上であることが求められます。
環境によって異なる制動性能
乾いた路面での制動をドライ制動、濡れた路面での制動をウェット制動、雪道での制動を雪上制動、凍結した路面での制動を氷上制動と呼びます。安全性に直結する性能であるため、制動性能も考慮に入れましょう。サマータイヤであれば乾燥制動とウェット制動の性能を、スタッドレスタイヤであれば雪上制動や氷上制動の性能について考慮する必要があるでしょう。
この記事をお読みの皆さんは教習所で車間距離の目安を教わったことでしょう。ですが、教習所で教わる数値はあくまでドライ制動時の制動距離を基準としています。路面の状態によって制動距離は大きく異なりますが、タイヤの性能次第では制動距離を縮めることもできます。タイヤを選ぶ際、ロードインデックスの次に注目したい性能です。
接地面積に由来する性能
タイヤと路面の接地面積はおおむね、タイヤの断面積における縦横比、すなわち「タイヤの扁平率」で決まります。扁平率が小さいほどタイヤの断面は平らになります。タイヤと路面の接地面積が大きいほど摩擦が大きくなるため、摩擦が大きくなります。摩擦が大きくなると動力が伝わりやすくなるため加減速が容易となる反面、転がり抵抗が大きくなるため燃費が悪化します。
タイヤの接地面積は運動性能と安定性能にも影響をおよぼします。運動性能と安定性能はトレードオフの関係にあります。一般に、扁平率が小さいほど路面の接地面積が大きくなり、ハンドル操作に対して車体が機敏に反応するようになります。すなわち、運動性能が高くなります。一方、わずかなハンドリングに対して敏感に反応するため、安定した走行を継続するためにはドライバーは継続的な集中力を求められます。
かといって、ハンドルを操作した際に車体の挙動が鈍くなりすぎるのも問題です。あまりに路面との接地面積が小さいと制動距離が伸びてしまうなど、他の弊害も生まれます。
騒音に関する性能
タイヤに関する騒音は、車外に対する騒音と車内に対する騒音の大きく二つに分けられます。車外に対する騒音は通過騒音と呼ばれ、外部環境に影響をおよぼします。昨今ではエンジン性能の向上により動力部については静粛化が進んでおり、自動車走行時における騒音はタイヤによる割合が大きくなっています。国土交通省は自動車走行時の騒音要因としてタイヤの寄与率が高くなっていることを指摘し、タイヤ騒音規制検討会を設けています。
車内に対する騒音はさらに二つに分類できます。路面からタイヤを伝って車内に響く音をロードノイズと呼びます。タイヤと路面の接地面積が大きいほどロードノイズを拾いやすくなり、乗り心地が悪くなります。一方、タイヤそのものが発する騒音をパターンノイズと呼びます。パターンノイズは溝がタイヤに食い込む際の音と、走行中にタイヤの溝に溜まった空気が圧縮される音で構成されます。一般に溝の幅が大きいほどパターンノイズは大きくなります。最近ではタイヤから発せられるパターンノイズを、では音響工学を応用して打ち消す技術が登場するなど、静粛性を求めるドライバーにとっては嬉しいニュースもあります。
経済的な性能
タイヤは消耗品です。タイヤ本体の価格、耐久性、故障の頻度、燃費、買い換えサイクルの頻度など、様々な観点からコストを考慮する必要があります。例えば、摩耗しやすいタイヤは買い換えサイクルが短くなりますが、摩耗しないよう極端に固いタイヤを用いると路面にタイヤのゴムが食い込まないため、制動距離が伸びたり加速力が鈍ってしまったりと、弊害を生みます。タイヤは摩耗することも役割の一つです。最近では耐摩耗性を向上させつつ低燃費・ウェット制動性能も両立したタイヤも開発されつつありますが、燃費や耐摩耗性にとらわれるあまり、安全性を失念しないようにしましょう。
タイヤの劣化や変質も留意すべきポイントでしょう。紫外線に晒したり高温多湿な環境に置かれたりするとタイヤは急速に劣化し、使い物にならなくなります。特に中古のタイヤを購入する際は、同一の新品タイヤの性能だけでなく、劣化の度合いも考慮に入れる必要があるでしょう。サマータイヤの寿命は使用開始から約6年、スタッドレスタイヤの寿命は使用開始約3年程度であると言われています。
性能が高いタイヤは高価になりがちです。ですが、安価を理由に低い性能のタイヤを買い求めた結果、事故を起こしてしまってはかえってコストを支払うことになります。まずは安全を第一に考慮し、その後に性能や価格のバランスを見て決定することが賢明な選択でしょう。
タイヤ性能の試験を実施している機関
タイヤ公正取引協議会という民間団体が各メーカーのタイヤ性能を試験し、データを蓄積しています。また、タイヤを販売する際に消費者へ向けて表記できる性能は、タイヤ公正取引協議会が定める要領に基づいて発表されます。タイヤ公正取引協議会はタイヤに関わる企業によって構成される民間団体ですが、公正取引委員会と消費者庁によって監督されています。試験基準はタイヤ公正取引協議会によって明文化されており、試験結果もオンラインで公開されています。全てのタイヤについて全ての試験を実施されているわけではありませんが、タイヤ選びの一助となるでしょう。
まとめ
いかがだったでしょうか。タイヤの性能を評価する際は、多面的な観点から総合的に評価する必要があります。トレードオフ、あちらを立てればこちらが立たない、といった相反する性能も多くあります。
重要なことは安全を第一に考慮し、その後に性能やコストを考慮しながら自分に合ったタイヤを選ぶことです。ロードインデックスや制動距離は安全性に直結する最も基本的な性能です。安全性を十分に吟味した上で、ご自身の運転スタイルに合わせたタイヤを選びましょう。