タイヤが摩耗する原因と対策
タイヤの摩耗はなぜ起こるのでしょうか。アスファルトと接触するトレッドという部位は常にやすりの上を転がっているようなものであり、安全な走行を行うにあたり偏りがないか、空気圧が適切であるかなどの点検が必要です。
車のタイヤには様々な役割がありますが、特に重要な役割は二つあります。ひとつは車体を支える役割。もうひとつの役割が運動エネルギーの伝達です。エンジンの駆動力を伝達したり、静止に必要な抵抗力を伝達したりするためにタイヤは必要不可欠です。
タイヤの部位のうち、アスファルトと接触する部分をトレッドと呼びます。常にやすりの上を転がっているようなものですから、トレッドの摩耗は避けられません。トレッドがまんべんなく、ゆるやかにすり減っていくことが理想的ですが、現実にはトレッドの一部が摩耗する「偏摩耗」と呼ばれる現象や、摩耗が異常に早く進む現象が発生します。今回はタイヤの摩耗について、原因と対策をご紹介します。
目次
摩耗の原因
車重が重かったり、乗車人数が多かったり、積載量が多かったりするとタイヤに対する荷重が大きくなり、トレッドが摩耗しやすくなります。
発進や制動を行う際はタイヤに対して縦方向に強い摩擦力が発生するため、摩耗の原因となります。特に急発進や急制動を行うとタイヤが空転し、トレッドが削れてしまいます。
カーブを曲がる際は遠心力が発生するため、タイヤに対して横方向に強い摩擦力が発生します。重い荷物を積載していたり、重心が高い車であったりする場合、遠心力がより強く働くようになり、タイヤが摩耗しやすくなります。
走行速度が大きい場合、速度が大きいとトレッドと路面が衝突するような運動となるため、摩耗の度合いが増します。また、エンジンの駆動力は100%がタイヤから路面に伝わるわけではなく、一部が熱エネルギーに変わります。走行速度が大きいと熱エネルギーの割合も大きくなるため、タイヤが高温になります。ゴムが柔らかくなるため、これも摩耗の原因となります。
温度については、真夏の高温や真冬の低温も影響を及ぼします。高温になるとゴムが柔らかくなるため削れやすくなります。逆に、あまりに低温となるとゴムが固く脆くなるため、これもまた摩耗が進行する原因となります。夏場はサマータイヤ、冬場はスタッドレスタイヤと使い分けると良いでしょう。
先述した原因へ対する方策のひとつは、安全運転を心がけることです。乗員や積載量については、車ごとに定められた値を遵守しましょう。急発進や急ブレーキは事故の元であり、またタイヤの摩耗を早める原因ともなります。
カーブでは速度を緩め、遠心力が弱まるように心がけましょう。高速道路を走行する際には法定速度を遵守し、定期的にサービスエリアやパーキングエリアに立ち寄ってドライバーと一緒にタイヤも休めましょう。
偏摩耗の原因
偏摩耗はトレッドに対する荷重が偏っている場合に発生します。荷重が偏る、と聞くと車に積む荷物が片側に偏っている、と思われるかもしれません。ですが、実際には様々な要因がトレッドに対する荷重の偏りを生みます。
空気圧が不適切であったり、アライメント(ホイールの角度)が不適切であったり、等々。タイヤの一部が摩耗してスリップサインが露出してしまうと、他の部分が残っていてもタイヤを交換しなければなりません。スリップサインが出現しているタイヤを使うことは道路運送車両法で禁じられており、また危険でもあります。
タイヤの空気圧が高すぎる場合、トレッドの中央が膨らむため、中央のみが路面と接して削れやすくなります。逆にタイヤの空気圧が低すぎるとトレッドの中央がへこみ、両サイドが路面に接し、摩耗が進行します。
パンクしていなくとも、タイヤの空気は徐々に抜けていきます。月に一度はタイヤの空気圧をチェックすることを心がけましょう。タイヤの空気はガソリンスタンドやカー用品店、カーディーラーなどでチェックできます。セルフ式のガソリンスタンドの場合、空気を充填する機器が設置されている場合も多いようです。
車に大きな衝撃が加わったり、長年アライメントを調整していない場合は適切なアライメントになっていない場合があります。特にトレッドの片側だけが摩耗しやすい場合はアライメントのうちキャンバー角、車を正面から見た際のホイールが傾いていることが考えられます。
レースなど、激しいコーナリングを行う場合にはあえてキャンバー角を付けることもありますが、基本的には路面に対してタイヤが垂直に立つよう調整した方が良いでしょう。
また、車を上から見た場合のホイールの角度、トー角が狂っている場合にはトレッドのブロック(溝が彫られていない部分)が毛羽立つような状態になります。タイヤの回転方向が進行方向に対してずれるため、常に横すべりを起こしているために発生します。
アライメントが狂っているかどうか正確に調べるためにはリフトアップして角度を測定する必要がありますが、運転時の感覚でもアライメントがおかしいことに気付ける場合があります。
タイヤがさほど摩耗しておらず、空気圧も適正であるにもかかわらず、カーブの曲がり方がおかしかったり、車がまっすぐ進まないと感じられた場合、アライメントが狂っている可能性が高いと考えられます。アライメントの調整は安全性に直結します。タイヤそのものに問題が無い場合は専門店に相談した方が良いでしょう。
とはいえ、タイヤやホイールを交換するたびにアライメントを調整する必要はありません。アライメントの調整が必要となるのは、カスタマイズによって車高を上げ下げするなど、いわゆる足回りを改造した場合です。走行中に縁石へぶつけるなど、ホイールに強い衝撃を受けた場合もアライメントが狂うことがあります。
アライメントの調整は難しい作業となるため、タイヤの状態や走行時の運転感覚を通してアライメントが狂っていると感じられた場合は専門店に依頼した方が良いでしょう。車検時にはアライメントもチェックされますが、どこまで調整してもらえるかは整備工場によって異なります。
タイヤのローテーション
ほとんどの乗用車は前輪駆動方式であるため、エンジンの駆動力が前輪のタイヤに集中します。制動時の荷重も前輪に集中するため、後輪より前輪の方が摩耗の進行が早くなります。前輪のタイヤの寿命は、後輪のタイヤの半分~三分の一程度であると言われています。
また、カーブを曲がるために前輪の角度を変えると、遠心力がトレッドの側面に強く作用します。車の構造上、前輪のタイヤは偏摩耗を起こしやすいのです。したがって、先述したような原因に対処しても、タイヤの偏摩耗を完全に解消することは不可能です。
また、後輪のタイヤは進行方向に対してブロックが斜めに摩耗するような減り具合になることがあります。駆動力がかからず、制動力のみがかかっているために発生します。寿命が短い前輪タイヤだけを交換している場合に多く見られる摩耗のパターンです。
タイヤの摩耗を均一とするために有効な手段がローテーションです。前輪のタイヤと後輪のタイヤを一定の規則に従って入れ替えることでタイヤを長持ちさせることができます。ローテーションの手順については車の種類や使用しているタイヤによって異なるため割愛しますが、車体をジャッキアップして行う重作業であるため、ガソリンスタンドやカーディーラー、カー用品店といった専門業者に依頼した方が良いでしょう。
タイヤ1本あたり500円、4本で2000円程度と、工賃もさほど高くありません。ローテーションは走行距離5,000kmごとに行うことが望ましいと言われています。ただし、アライメントが狂っている場合はローテーションを行っても効果が望めません。
まとめ
今回はタイヤの摩耗を早める様々な原因と対処法をご紹介しました。タイヤの摩耗は避けられないことですが、安全運転を心がけたり、季節に合わせたタイヤを使用することで摩耗の進行を軽減できます。
また、空気圧やホイールのアライメントが適切でない場合にはタイヤの一部が極端に摩耗する偏摩耗が起こります。タイヤや車体を定期的に整備することで無用なコストを削減することができます。
加えて、前輪と後輪で摩耗の進行は異なります。ローテーションを行うことでタイヤの寿命を大幅に延ばすことができるため、5,000kmごとにローテーションを行いましょう。