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愛好者が増えている「引っ張りタイヤ」とは?
引っ張りタイヤとは、ホイールに対する適正タイヤサイズよりも細いタイヤを履かせた状態を指します。
ホイール両側のリムでタイヤを引っ張っているようなイメージです。
以前は欧州車を中心に普及していましたが、近年日本でも人気が高まっています。
引っ張りタイヤは、ハンドリング性の高さからレーシングカーにも利用されるセッティングです。
またホイールの美しさが際立つためモーターショーの展示車にも取り入れられています。
このように、プロから一般まで愛好者が多い引っ張りタイヤには、人々を惹きつける多くのメリットが存在します。
一方で、安全性を脅かしかねないデメリットがあることも事実です。
見た目だけじゃない!引っ張りタイヤのメリット
国内外で人気を博している引っ張りタイヤ。通常のタイヤセッティングと比較してどのようなメリットがあるのでしょうか。
ホイールの意匠性を引き立てるクールな外観
何といってもルックスの良さが引っ張りタイヤの大きな魅力です。
従来のセッティングではタイヤの膨らみに隠れてしまうようなホイールのエッジーさが際立ち、よりスタイリッシュに、よりスポーティーにドレスアップさせることが可能です。
個性的なホイールに出会ったのを機に引っ張りタイヤに組み替える方も少なくありません。
フェンダーとの干渉を抑えてドレスアップの自由度を上げる
スポーツカーやセダン、車高を下げた車で頭を悩ませるのがタイヤとフェンダーの干渉ではないでしょうか。
こういった場合に引っ張りタイヤが重宝されます。
タイヤを引っ張ることでタイヤの肩がフラットに近づくため、フェンダーと干渉しにくくなるのです。
これにより、フェンダーとホイール側面を揃えるツライチも狙いやすくなります。
低扁平タイヤに似たハンドリングが得られる
スポーツカーとしての走行を重視する場合にも大きなメリットがあります。
レーシングカーやスポーツカーで用いられる低扁平タイヤは、コーナリングのしやすさや高い操作性が魅力ですが、少々お値が張るのが欠点です。
実は低扁平タイヤの利点を安価で手に入れられるのが引っ張りタイヤのメリットです。
タイヤを引っ張ることにより接地面が広くなり、ハンドリングがダイレクトに伝わります。
またタイヤに余分な弾性がなくなることで路面状況が直に感じられるため、安全走行にも繋がります。
安全が確保できない?引っ張りタイヤのデメリット
タイヤメーカーが提示する適正値を超えてセッティングされる引っ張りタイヤには、デメリットも存在します。
これを知っておくと、引っ張りタイヤを安全に楽しむ策が見えてくるのではないでしょうか。
タイヤが持つ性能が十分に発揮できない
タイヤを引っ張ることでタイヤの形状を変えてしまっているため、タイヤメーカーが提示している性能が損なわれる可能性があります。
静粛性や乗り心地には目をつむるとしても、グリップ力や安定性など安全確保の面で手放したくない性能まで失ってしまうかもしれません。
ハンドル操作がしにくくなる
例えば女性のように腕力が弱い方の場合、タイヤの接地面積が広くなることでハンドルが重くなる可能性があります。
タイヤの接地面積が広くなることは、メリットでもデメリットでもあるのです。
空気圧の調整を怠ると事故につながる可能性も
引っ張りタイヤの一番のデメリットが空気圧調整の難しさです。
引っ張りタイヤは空気圧を高くすることでリムとビードの噛み合わせを維持していますが、空気圧が下がるとビードが外れやすくなります。
だからといって空気圧を高くしすぎるとバーストを起こす可能性もあります。
引っ張りタイヤで安全走行するためには、適正な空気圧の維持が欠かせません。
引っ張りタイヤの適正な空気圧
引っ張りタイヤは通常よりも高めの空気圧にすることで、タイヤを外れにくくしています。
では「高めの空気圧」とは具体的にどれぐらいを指すのでしょうか。
多くが採用している数値は「3キロ」
引っ張りタイヤでドレスアップした場合、多くのメーカーが示す空気圧は約3キロです。
一方、スタンダードなロードタイヤは2キロ程度、空気圧による変形がしにくいエクストラロード(XL)タイヤでは2.9キロが最大値となっています。
「約3キロ」はXLタイヤの適正空気圧を目安とした数値だといえます。
熱膨張を考慮してバーストを抑止
空気圧を高めに設定するのが引っ張りタイヤの基本ですが、高ければいいということではありません。
タイヤが回転すると充填空気は熱を持ち、膨張します。3キロの空気が10%は膨張すると考えて良いでしょう。
通常走行時は何ら問題がない場合でも、高速走行でタイヤ内の空気が膨張してしまえばバーストする危険があります。
そのため、10%の膨張を加味した上でタイヤの空気圧を調整しなければなりません。
「約」3キロは、前後10%のマージンが目安です。つまり2.7キロ〜3.3キロの範囲内に収めることをおすすめします。
空気圧計は簡易なものでもOK
タイヤの空気圧を計測するのはガソリンスタンドで洗車をするとき、という方も少なくないでしょう。
しかし引っ張りタイヤで走行する場合はこまめに空気圧チェックを実施してください。
市販の空気圧計は安価で使いやすいですが、実際の空気圧と測定値に誤差が出やすいという難点があります。
とはいえプロ仕様の空気圧計を購入するのは現実的ではありません。
この場合、まずはショップなどで空気を充填する際に正確な空気圧を計測してもらいましょう。
その後すぐに手持ちの空気圧計で測定しなおします。3キロのはずなのに2.5キロを示すといった場合でも、常に2.5キロをキープしておけば安心です。
引っ張りタイヤで車検は通る?
見た目だけでなく走行性にも直結し、場合によっては事故に繋がりかねない引っ張りタイヤ。これを履いたままで車検に通るのでしょうか。
「引っ張りタイヤNG」の規定はない
タイヤよりもホイールが外に出ているからといって車検NGとなる規定はありません。もちろん「引っ張りタイヤNG」という基準もありません。
引っ張りタイヤであることよりも、その状態で走行して安全かどうかで判断が分かれます。
検査官の判断によっては車検が通らない可能性も
検査官が車を見て「危険」と判断すれば車検は通りません。これは引っ張りタイヤでもそうでなくても同様です。
この判断基準は検査官によってばらつきがあるため、車検の際は通常のタイヤに履き替えるのも車検を通すひとつの方法だといえます。
重要なのはロードインデックスを満たしていること
引っ張りタイヤで車検が通らない事例としては、ロードインデックス不足が挙げられます。ロードインデックスはタイヤの耐重量を表す数値です。
ロードインデックスが車体重量を下回る場合、タイヤが破損する恐れがあります。
引っ張りタイヤは適正値よりも細いタイヤを履かせているため、ロードインデックスの範囲に収まっているかどうかは重要なポイントです。
特に車体重量が重い場合はオーバーしやすいため、注意が必要です。
こんな状態は危険!引っ張りタイヤの限界とは
引っ張りタイヤは、タイヤの適合リム幅を考慮してセッティングするのが基本です。
これを逸脱した組み合わせでショップに取り付けを依頼すると、場合によっては断られるケースがあります。
無理して組むことにより、そもそも安全性が確保できない引っ張りタイヤにリスクを上乗せしてしまうからです。
引っ張りタイヤを組む際、次に挙げる2つの状態が見られるとリスクが上がるといえます。
リムに届いていない状態
ホイールのリム幅がタイヤの適合リム幅を超えた場合、タイヤが過剰に引っ張られることでビード側面が持ち上がり、リムフランジとタイヤの間に隙間ができてしまいます。
この状態ですぐに空気が抜けることはありませんが、ハンドルを大きく切った場合などにタイヤに捻りが加わると、隙間部分から空気が漏れる可能性があります。
ビードが上がりきっていない状態
タイヤとホイールは、タイヤのビードとリムが噛み合うことで固定されています。
この噛みあわせは強力で、タイヤ交換ではビードを落とすのに器具を使うほど。
そのため、ビードがリムに載っている=ビードが上がりきっていればタイヤが簡単に外れてしまうことはありません。
しかし適合リム幅を無視した引っ張りタイヤの場合、ビードが上がりきらないことがあります。
タイヤとホイールが噛み合っていないため、タイヤが組めているとはいえません。
展示車のためのセッティングを除いて、ビードが落ちている状態での走行は危険です。
引っ張りタイヤのフィッティングは難しい
インターネット上には引っ張りタイヤを組んだときのタイヤサイズやホイールサイズが数多く掲載されています。
しかしサイズ・寸法だけを参考にしてタイヤを購入し、引っ張りタイヤを組んでも、うまくいかない場合があります。
タイヤサイズが同じでもメーカーによって実寸値が違う
タイヤに表記されているサイズが同じでも、メーカーごとに実寸が異なります。
例えばトレッド幅は表記サイズからプラスマイナス10mmの誤差が許容範囲とされているため、メーカーによっては20mmの差が生じることがあるのです。
そのため、タイヤサイズだけで引っ張り可能・不可能を判断するのはリスクが高いといえるでしょう。
もちろんタイヤのインチ数についてもメーカーによって誤差があります。
タイヤだけでなく、ホイールも同様です。ホイールはリムの形状によってもタイヤとのフィット感が異なります。
タイヤを持ち込む場合は注意が必要
タイヤを販売しているネットショップは、店頭では取り扱いがないような海外製の安いタイヤも豊富に揃っています。
ネットで安いタイヤを購入して持ち込み取り付けを依頼するケースが増えています。
通常のタイヤ取り付けであれば問題ありませんが、引っ張りタイヤの場合は実際に組んでから「リムが上がりきらない」「届かない」といった状況に陥ることが少なくありません。
こうしたトラブルを避けるためには、タイヤフィッターがいる店舗やネットショップに相談するのが最善といえるでしょう。
引っ張りタイヤを安全に楽しむために
引っ張りタイヤを禁止する規定はありませんし車検も通過する可能性が高いといえます。
しかしタイヤとホイールの適正な組み合わせをしていない以上、万が一タイヤの破損が起きてもメーカーの保証は受けられません。
空気圧調整を怠ればタイヤが外れるだけでなくバーストを起こす危険もあり、大事故に繋がりかねません。
一方、引っ張りタイヤにすることで車の外観はグッと魅力を増しますし、ホイールにこだわったりホイールアクセサリーをつけるなどの楽しみが広がります。
引っ張りタイヤを組む際はタイヤの知識が豊富な専門家に相談し、極端に細いタイヤは避けましょう。
また、タイヤの空気圧をこまめに確認するのも、引っ張りタイヤを安心して楽しむポイントです。