eスポーツからプロのレースドライバーへ
eスポーツとレースには関わりがあるのかご紹介いたします。例えばレーシングゲームは、ただのゲームというわけではなく、その競技性の高さやリアルさから、プロのドライバーがコース取りの参考にを利用するなどしているようです。
皆様はeスポーツという言葉をご存じでしょうか。あまり馴染みのない言葉ですが、2018年のユーキャン新語・流行語大賞に「eスポーツ」がノミネートされたため、ご存じの方もいらっしゃるかもしれません。
eスポーツは、正式にはエレクトロニック・スポーツ(Electronic Sports)と呼びます。テレビゲームやコンピューターゲームの腕前を競うことを「スポーツ」として捉える際にeスポーツと呼びます。
現在は世界中でeスポーツの大会が開かれ、優勝者には高額な賞金が用意されています。日本でもプロのeスポーツプレイヤーが活躍しています。
レーシングゲームもまたeスポーツとして捉えられており、2018年からはFIA(国際自動車連盟)公認のオンライン・モータースポーツレースが開催されています。今回はeスポーツとしてのレーシングゲーム、そして現実のレースとの関わりについてご紹介します。
目次
リアルなレーシングゲーム
最新のレーシングゲームのグラフィックは、もはやゲームであると言われなければすぐには気づかないほどリアルに作り込まれています。
また、ゲーム中に登場する車の挙動も自然で、一昔前のレーシングゲームのように「カクカク動く」「不自然に滑る」といったこともありません。それもそのはず、グランツーリスモなどの有名なレーシングゲームでは、実際に行われたレースデータをゲームに取り入れているのです。
リアルなのは動きだけではありません。他の車両や障害物に衝突した際には、車が破損したり変形したりします。外見の損傷だけでなく、思い通りに操縦できなくなるなど、プレイにも悪い影響を及ぼします。まさに実車さながらのレースが楽しめるのです。
後ほどまた述べますが、レーシングゲームはその競技性の高さや現実の再現度から、レーシングゲームのトッププレイヤーが現実のレースドライバーに転向したり、プロのレースドライバーがコース取りの参考にレーシングゲームを利用したりと、単なる娯楽を超えた活用がなされています。
eスポーツ:競技としてのテレビゲーム
欧米では1990年代から賞金をかけてテレビゲームの腕前を競う大会が多く開催されていました。近年では大会の賞金が1億円を超えることもあります。
大会で賞金を稼いだり、腕前を披露して観客を熱狂させる様子はスポーツそのもの。このように、競技性が高いテレビゲームの腕前を競うことを指して、エレクトロニックスポーツ(eスポーツ)と呼びます。
ゲームがスポーツ?と思われる方もいらっしゃるかもしれません。ですが海外ではチェスや将棋といった高い思考力が要求される競技は「マインドスポーツ」と呼ばれており、スポーツの一種として捉えられています。
競技性の高いゲームタイトルのトッププレイヤーには高い集中力が求められます。60分の1秒単位の判断、戦術の組み立て、対戦相手の癖をいち早く見抜く洞察力などが必要になるため、並大抵の集中力ではプロとして大会を勝ち抜けないのです。また、eスポーツのトッププレイヤーは一流アスリート並みの反射神経や判断力を有していることも明らかになってきています。
大会で賞金を獲得するだけでなく、パソコン周辺機器メーカーやアパレルメーカーといった企業がスポンサーに付くプレイヤーも多く存在します。最近では日本政府が韓国のeスポーツプレイヤーにアスリートビザを発行するほど、社会的認知度も高くなってきています。
実は、日本には優秀なeスポーツプレイヤーが多く存在します。おそらくもっとも有名なプレイヤーは「ウメハラ(本名:梅原大吾)」選手でしょう。彼はNHKが制作している「プロフェッショナル 仕事の流儀」にも出演しています。
また、東大卒プロゲーマーとして名を知られている「ときど(本名:谷口一)」選手もTBSが制作している「情熱大陸」などに出演しています。
上述のお二人はいわゆる格闘ゲームと呼ばれるジャンルのプレイヤーですが、他にもデジタルカードゲーム、戦略ゲーム、3Dシューティングゲームなど、eスポーツのジャンルは多岐に渡ります。もちろんレーシングゲームも含まれています。
eスポーツプレイヤーからレースドライバーへ
日産、プレイステーション、ポリフォニー・デジタルの3社が2008年から共催している「GTアカデミー」という企画があります。これは「グランツーリスモ」というレーシングゲームのトッププレイヤーに、実際のレースドライバーとなる機会を与えるもので、既にプロのレースドライバーを多く輩出しています。
eスポーツからリアルなスポーツへの転身とも言えるでしょう。
GTアカデミー出身のルーカス・オルドネス選手は2013年のル・マン24時間レースも参戦してLMPクラスと呼ばれるカテゴリーで3位に入賞したり、2014年のスーパーGT第7戦で優勝したりするなど、目を見張る活躍を見せています。
ヤン・マーデンボロー選手もまた、GTアカデミー出身であり、2012年のドバイ24時間レースに参戦してSP2クラスと呼ばれるカテゴリーで3位に入賞したり、2013年のル・マン24時間レースでルーカス・オルドネス選手と共に3位に入賞するなど、活躍を見せています。
他にも、GTアカデミー出身の選手は続々と現実のモータースポーツに参入を果たしており、レースドライバーの新たな開拓経路として期待が寄せられています。
一般に、レースドライバーになるためには非常に高額な費用が必要となります。また、ドライバーの才能は幼少期から育んだ方が有利であると言われています。従来は必然的に、裕福な家庭に生まれ育った人しかプロのレースドライバーになれませんでした。
ですが、レーシングゲームは現実のモータースポーツよりとても安価にプレイできます。オンライン対戦の成績を見れば誰がトッププレイヤーであるか一目瞭然であるため、マシンを提供するチームもeスポーツ界隈に眠っている才能を比較的容易に発掘できます。
もちろん、GTアカデミーから選抜されたからといって、必ずしもプロのドライバーとして続けていけるわけではありません。現実のレースはeスポーツよりさらに過酷で、強靭な身体と精神が要求されます。
事実、ルーカス・オルドネス選手やヤン・マーデンボロー選手はGTアカデミーから選抜されたのち、数ヶ月の基礎トレーニングが課せられています。トレーニングメニューには飛行機でのアクロバット飛行、軍隊並みのフィジカルトレーニングなど、厳しい内容があるそうです。
それでも、金銭面でプロの道を諦めていた一般人が、eスポーツによってレースの才能を認められてプロドライバーになる、というサクセスストーリーには言いようのない魅力があります。
プロのドライバーもコースをゲームで覚える
実を言うと、プロのドライバーもコースを覚えるためにレーシングゲームをプレイすることがよくあります。最近のプロドライバーはトレーニング専用に設定された、ゲームよりも高性能なシミュレーターを利用することも多いのですが、台数には限りがあるため、利用できない時間もあります。
そんなときは、レーシングゲームを活用してコースの内容を頭に入れておく、といった活用がなされています。
もちろん専用シミュレーターに比べると、レーシングゲームの性能はいささか劣ります。ですが最近のレーシングゲームは様々なサーキットを忠実に再現しており、サーキットレースの最高峰であるF1ドライバーでさえ「最近のゲームは凄い。プレイした後、実車に乗ったら同じ景色が見えた」と言っています。
特に若い選手はゲームに馴染みがあるようで、F1ドライバーのピエール・ガスリー選手は自宅にレーシングゲーム専用のセットを設置して練習に励むほどやりこんでいるそうです。
まとめ
今回はeスポーツとしてのレーシングゲーム、そして現実のレースとの関わりについてご紹介しました。eスポーツは最近になって確立されつつある、テレビゲームの腕前を競う新しい「スポーツ」です。年収が1億を超えるプレイヤーも存在し、日本政府がアスリートビザを発行するようになるほど、社会的認知度も高まってきています。
レーシングゲームもまたeスポーツとして競われていますが、他のeスポーツよりある意味では進んでいると言えるでしょう。レーシングゲームのトッププレイヤーからプロのレースドライバーになったり、プロのレースドライバーがレーシングゲームを活用したりと、バーチャルとリアルが互いに補い合い、高め合う形で進化を加速させています。
たかがゲーム、されどゲーム。eスポーツのプレイヤーが懸ける情熱と鍛錬は、いわゆるアスリートに負けるとも劣りません。現実のモータースポーツにも役立てられるなど、これからの発展が楽しみなエンタテイメントです。