次世代のタイヤ「エアレスタイヤ」とは?
エアレスタイヤは、言葉の通り空気を必要としなく、パンクやバーストの心配がなく、メンテナンスフリーであることに特徴があります。また一般の実用化に向けた各メーカ―ごとの取り組みも併せてご紹介させて頂きます。
エアレスタイヤ、という言葉を聞いたことはありませんか?従来のタイヤは空気を入れることによって車の体重を支え、また路面からの衝撃を吸収していました。ですが、パンクやバーストなど、空気圧に由来する事故は後を絶ちません。
ドライバーは定期的にメンテナンスを実施する必要がありますが、人は必ずミスをしたり、忘れてしまったりしてしまうものです。
もし、空気圧のメンテナンスから解放されたなら……そんな夢を叶えてくれるかもしれない技術がエアレスタイヤです。
最近では2017年、ブリヂストンが自転車向けのエアレスタイヤを2019年に実用化を目指すと発表しました。重量の軽い自転車では既に実用化が目前となっているエアレスタイヤですが、車における実用化も研究されています。今回はエアレスタイヤとは何か、どこか画期的なのか、実現はいつ頃になるのか、といった、気になることについてご紹介します。
目次
エアレスタイヤとは?
エアレスタイヤとは文字通り、空気を必要としないタイヤのことです。外周にゴムが用いられている点では従来のタイヤと同じですが、空気が担っていた「車の荷重を支える」および「衝撃を吸収する」という役割を空気の代わりを果たす「スポーク」に任せることが多いようです。
現在開発されているエアレスタイヤは、自転車の車輪によく似ています。車軸から車輪に向かってスポークが伸びているのですが、このスポークに樹脂などの弾力性がある素材を使い、さらにスポークの形状を工夫することで車の荷重を支えたり、衝撃を吸収したりしています。
一般的な自転車のスポークは車輪に対して直角に伸びていますが、エアレスタイヤのスポークは風車のような形状をしており、板バネのような弾力を確保しています。
なお、エアレスタイヤには重量の軽量化も期待されていますが、現在のところは一般的な空気入りタイヤに比べると重い、というのが実情のようです。ホイール部分は従来のタイヤと変わらないため、空気が入っていた部分にスポークが入ると重くなってしまいます。ですが、転がり抵抗性能については空気入りのタイヤよりも優れている場合が多く、タイヤの摩耗にも強いようです。
エアレスタイヤは何が画期的なのか?
まずはタイヤの歴史を振り返ってみましょう。1867年ごろ、車輪の外周にゴムを巻くようになりました。これがタイヤの発祥ですが、当時は中身にもゴムが詰まった状態のタイヤ、いわゆるソリッドタイヤでした。
タイヤに空気を入れることが発明されたのは1845年のことでした。空気入りのタイヤが実用化されたのは1888年、それも自転車用としての実用化でした。
ちなみに自転車用のタイヤを実用化したのはスコットランドのジョン・ボイド・ダンロップです。そう、彼は現在でも世界屈指のタイヤメーカーとして名を馳せている「ダンロップ」ブランドの創設者です。
さて、いわゆる車に空気入りのタイヤが使用されるようになったのは1895年のことです。1900年代に入ると多くの車に空気入りのタイヤが使用されるようになり、現在に至ります。
バイアスタイヤからラジアルタイヤへの変遷が見られたり、材料の進歩があったり、空気の代わりに窒素ガスを充填するようになったり、空気圧が抜けても一定距離を走れるランフラットタイヤが開発されたりと、タイヤに関する技術は常に進化を続けてきましたが、「タイヤに空気を入れる」という基本的なコンセプトは実に130年以上も変わりませんでした。
エアレスタイヤは、初期のタイヤに似ており、原点回帰ともいえるでしょう。タイヤ部分はゴムだけの、いわゆるソリッドタイヤであり、スポークが荷重を支えています。
ゴムの役割はエンジンの駆動力を路面に伝えることと、ハンドル操作に応じて旋回すること、すなわち「走る、止まる、曲がる」という動作を担うことになります。
こうして見ると、技術的な面から見たエアレスタイヤの画期性は「従来のタイヤが担ってきた多すぎる役割を分割することにある」と言えるのではないでしょうか。一般に、役割が多すぎると往々にして、あちらの役割を立てればこちらの役割が立たず、という事態に陥りがちです。
役割が分担されれば、それぞれの役割について研究・開発を集中できるため、「従来の空気入りタイヤの代わり」としてではなく「従来の空気入りタイヤより優秀なタイヤ」としてエアレスタイヤが開発される可能性もありえます。
また、メンテナンスの面から考えても、従来のタイヤはトレッド面に穴が空いてしまえばタイヤ全体を取り替える必要がありましたが、エアレスタイヤであればトレッド面だけを交換すればよいため、メンテナンス性が向上します。
もっとも、私たち一般人がエアレスタイヤに期待することはやはり、パンクやバーストの心配がなく、メンテナンスフリーであること、という点ではありますが。
自動車向けエアレスタイヤの実用化はいつ頃か
実のところ、自動車用のエアレスタイヤは既に実用化されています。といっても、スキッドステアローダーという小型ブルドーザー向けの製品です。
ミシュランは2014年より「MICHELIN X TWEEL SSL」という製品を北米で製造・販売しています。また、ミシュランは2018年から欧州での販売を開始しており、2019年には日本でも同製品を販売すると発表しています。
では、私たちが日常的に利用する車に向けたエアレスタイヤはいつごろ実用化されるのでしょうか。主なタイヤメーカーの取り組みをいくつかご紹介しましょう。
例えば2017年の9月、トーヨータイヤは「noair(ノアイア)」というエアレスタイヤを発表し、市販車両に装着した試乗会を実施しました。板状のスポークが多数、車輪に対して斜めに配置されており、樹脂本来の弾力と板バネ構造の弾力で、荷重を支える強度と衝撃吸収性を両立しています。
トーヨータイヤの noair 公式サイトによれば、既に車に装着して高速走行ができる段階に到達している、とのことです。一方、路面の小さな凹凸がドライバーに伝わってしまうなど、乗り心地や静粛性には未だに課題が残っているようで、一般向けの販売はもう少しだけ先になりそうです。
ダンロップは「GYROBLADE(ジャイロブレード)」というエアレスタイヤの開発を進めていることを、2015年に発表しています。外見はまさに、風車の外周部に車輪を取り付けてゴムを巻いた、といった具合。
実用化の見通しについては発表されていませんが、エアレスタイヤはタイヤメーカー各社が技術開発競争に参加しているため、そう遠くない未来に実用化の見通しが発表されるのではないでしょうか。
エアレスタイヤの開発競争が進んでいる理由は、世界的に自動車保有台数が増加し、ゴム不足となる可能性が指摘されているためでもあります。タイヤのゴムは石油製品であるため、もし石油が枯渇してしまえばタイヤを製造することさえ困難になってしまいます。
また、エアレスタイヤが実用化されれば、それぞれの部品が損傷したときも最低限の交換で済むため、より少ない資源でタイヤのライフサイクルを循環させられる、というメリットも考えられます。
まとめ
今回はエアレスタイヤとは何か、どこか画期的なのか、実現はいつ頃になるのか、といった、気になることについてご紹介しました。エアレスタイヤとは文字通り、空気を必要としないタイヤです。構造としては、空気の代わりに樹脂製のスポークを使い、このスポークが変形することで衝撃を吸収します。
エアレスタイヤは何よりパンクしない、環境に優しい、という点において、従来のタイヤを上回るメリットを私たちにもたらしてくれます。技術的な観点からすると、従来のタイヤが持っていた多くの役割を分割した、という点が画期的であると考えられます。
気になる実用化の見通しですが、トーヨータイヤは既に乗用車用のエアレスタイヤを開発しており、乗り心地や静粛性など、現代のドライバーが満足する品質を追求している段階にあります。
他、ミシュランやダンロップ、ブリヂストンなど、他のタイヤメーカーも開発に注力しています。そう遠くない将来、車のタイヤに目をやるとカラフルなスポークが飛び込んでくる、といったSF的な光景が見られるかもしれません。