タイヤの空気圧は高めがいいの?高めに設定することのメリットとデメリット
タイヤの空気圧は高い方が燃費などがよくなるという噂があるようです。基本的にはメーカーでオススメしている最適値がありますが、実際はどうなのでしょうか今回は自動車などのメンテナンスをおこなう際に気になることについて紹介していきます。
自動車メーカーは製品モデルごとに適切なタイヤの空気圧を指定しています。メーカーによって指定されたタイヤの空気圧を「指定空気圧」と呼びます。
多くの場合は運転席のドア周辺、あるいはガソリンタンクの開口部などに指定空気圧を示したラベルが貼られているため、タイヤの空気圧を調整する際には確認しておきましょう。前輪と後輪で異なる空気圧が指定されている場合もあります。
さて、タイヤの空気圧については「指定空気圧よりやや高めが良い」とする意見を耳にします。おおざっぱに言うと「高めにすると燃費が良くなる」、「タイヤの空気圧は常に下がり続けるので最初から高めにした方が良い」といった根拠があるようです。
これは本当なのでしょうか。また、そのようなメリットがあったとしても、デメリットは無いのでしょうか。今回はちょっと気になるタイヤの空気圧の噂について解説します。
目次
タイヤの空気圧は指定空気圧で
結論から言いましょう。少なくとも、車を購入した当初から装着されている純正タイヤの空気圧は、指定空気圧の通りに設定することがベストな選択です。また、一ヶ月に一回ほどの頻度でタイヤの空気を入れ直しましょう。
ただし、ホイールのインチアップを実施した場合は空気圧を高めに設定する必要があります。これはインチアップによってタイヤの扁平率が小さくなり、高めの空気圧に設定しないとタイヤが車の荷重を支えられなくなるためです。
他にも、純正でないタイヤを装着した場合は、適切な空気圧についてカー用品店やガソリンスタンドといったタイヤの専門家がいる業者に相談してください。指定空気圧とは異なる数値だった場合は、メモ書きを助手席の前方にあるグローブボックスに残しておけば問題ないでしょう。
スタッドレスタイヤも指定空気圧で
純正のタイヤと同じサイズであれば、スタッドレスタイヤもサマータイヤと同じく指定空気圧に設定しましょう。サマータイヤと異なる注意ポイントとしては、冬場に走行する際には、特にスタッドレスタイヤが冷えている状態のときに空気を入れるようにする、ということです。
タイヤの空気圧は、タイヤの温度が10℃上がると10kPaほど上がり、10℃下がると10kPaほど下がります。走行によってタイヤが熱を持った状態で空気を充填してしまうと、思わぬトラブルを呼んでしまいます。
サマータイヤでも同様の現象が起こるのですが、スタッドレスタイヤの場合は使用されるシーンの温度差がサマータイヤに比べて大きいため、注意が必要です。
例えばスタッドレスタイヤを履いてウィンタースポーツに出かける時を考えてみましょう。市街地の気温は7~8℃程度ですが、山間部の気温はマイナス7~8℃程度だとします。この場合、市街地にいる場合に比べて山間部にいる場合の空気圧は10kPaほど下がることになります。
つまり10kPaほど高めに空気を入れておけば山間部で指定空気圧になる、という計算になります。ですが、仮に市街地で買い出しを行った後に空気を入れてしまうと、思わぬ罠にはまってしまいます。車のタイヤは走行時に変形を繰り返すことで熱を持ちます。
市街地を走行することでタイヤの温度が27~28℃まで上がってしまった場合、空気圧は走行前より20kPaも高めになってしまいます。この状態で10kPaほど高めに入れたとしても、マイナス7~8℃の山間部でスタッドレスタイヤが冷えたころには30kPaも空気圧が下がってしまうため、差し引きで20kPaほどスタッドレスタイヤの空気圧が下がってしまいます。
重要なことは、スタッドレスタイヤはベストなパフォーマンスを発揮したいシーンに合わせて空気圧を設定する必要がある、ということです。ウィンタースポーツに出かける場合、山間部を走行する際にスタッドレスタイヤの指定空気圧となることが望ましいでしょう。
したがって、買い出しのために市街地をあちこち走り回る前に、直近のガソリンスタンドやカー用品店に立ち寄って空気圧を設定しましょう。このとき、スタッフさんへ「寒い山に入るので、空気圧を少し高めにしてほしい」と伝えると、より安心です。
では、なぜ「タイヤの空気圧は高めにした方が良い」という意見があるのでしょうか。実のところ、タイヤの空気圧を高めに設定することにはメリットもあります。ですが、タイヤは車にとって重要な機能をいくつも持っています。
悪いことに、往々にしてそれらの機能は片方を高めると片方が低くなる、いわゆるトレードオフの関係にあります。以降はタイヤの空気圧を高めに設定することのメリットとデメリットを解説します。
空気圧を高めに設定するメリットとデメリット
タイヤの空気圧を高めに設定するとどのようなメリットとデメリットがあるのか、以下に一覧を示します。
・燃費が良くなる
・偏摩耗を起こしやすくなる
・乗り心地や操縦性に影響する
・制動距離が増加する
・タイヤが損傷しやすくなる
それぞれの理由についてもう少し解説しましょう。
・燃費が良くなる
これは確かにその通りで、メリットと言えるでしょう。空気圧が高いほどタイヤは丸く膨らみ、硬くなります。タイヤが膨らむと路面との接地面積が減ります。また、タイヤが硬くなると運動エネルギーの損失が少なくなります。
柔らかいゴムボールより、硬い鉄球のほうがよく転がることは容易に想像できるでしょう。同じような理由で、タイヤの空気圧を高めに設定すると燃費に影響している転がり抵抗が小さくなるため、燃費は良くなります。
・偏摩耗を起こしやすくなる
これは明らかなデメリットです。タイヤの空気圧を高めに設定するとタイヤが丸く膨らむため、タイヤが路面に接する部分のうち中央部が摩耗しやすくなります。
タイヤはどこか一部分でもスリップサインが出てしまえば使用できなくなります。特にスタッドレスタイヤは柔らかい素材でできているため、摩耗しやすい状況に置かれると、その影響を強く受けます。
また、スタッドレスタイヤにはスリップサインとは別に「プラットフォーム」と呼ばれるサインが設定されており、このプラットフォームがどこか一部分にでも現れていると、スタッドレスタイヤであっても雪道を走行することはできなくなります。
・乗り心地や操縦性に影響する
これはドライバーによってメリットと捉えるかデメリットと捉えるか、判断の分かれるところです。
タイヤの空気圧が高めになっていると上下方向の振動が大きくなります。多くのドライバーにとって、この振動は不快な現象でしょうが、路面の状態を把握しながらスポーティなドライブをしたい方にとってはメリットとなるでしょう(安全運転の範囲内で)。
操縦性についても、タイヤの空気圧が高めだと直進安定性が悪くなります。言い換えると、ハンドル操作に対して敏感になるということです。つまり少しハンドルを切っただけで車が大きく曲がるようになります。これも一般的なドライバーにとっては不安定な挙動と捉えられますが、スポーティな走りを行う方にとってはキビキビした動作になる、と捉えられるでしょう。
・制動距離が増加する
これは明らかなデメリットです。空気圧が高いと路面との接地面積が減るため、制動距離が増加します。指定空気圧はタイヤと路面との接地面積が最大となる、最適な空気圧として設定されています。
なお、空気圧が低いと制動距離が減少する、ということはありません。空気圧が低い状態ではタイヤの中央がへこみ、側面だけが接地するようになるため、これもまた制動距離の増加に繋がります。
特にスタッドレスタイヤを装着している場合、雪道における制動距離が増加することは事故に直結します。最もパフォーマンスを発揮したいシーンに合わせて空気圧を設定することが望ましいでしょう。
・タイヤが損傷しやすくなる
これは明らかなデメリットです。タイヤの空気圧が高すぎると、障害物にぶつかった際に内部のコードが切れたり、 外傷を受けた部分からいっきにタイヤが破裂するバーストが起こりやすくなったりします。
スタッドレスタイヤを装着するシーズンの場合、バーストによる立ち往生はサマータイヤのシーズンより深刻です。救援には時間がかかりますし、追突の危険性もより高くなります。
いかがでしょうか。タイヤの空気圧を高めにすることにはメリットもありますが、残念ながらデメリットの方が多く挙げられます。それも安全性に直結するデメリットですから、タイヤの空気圧は適正な空気圧とした方が良いと考えた方が良いでしょう。
また、タイヤの空気圧を高めにすることで燃費が良くなることは確かですが、タイヤの空気圧で燃費の向上を図るよりは、運転方法を見直したり、エコタイヤ(低燃費タイヤ)の導入を検討したりする方がよほど効果を見込めるでしょう。
なお、サマータイヤだけでなく、スタッドレスタイヤにも同様のことが言えます。むしろスタッドレスタイヤを装着するシーンは普段より危険性が高いため、デメリットをなるべく回避した方が良いでしょう。
高速道路を走るときは高めが良いって本当?
確かに、ひと昔前は高速道路を走行する際にはタイヤの空気圧をやや高めに設定した方が良い、と言われていました。タイヤが高速で回転すると、タイヤが波状にたわむスタンディングウェーブ現象が発生しやすくなり、これは高速走行中のバーストという最悪の事態に繋がります。
タイヤの空気圧を高めに設定することでタイヤの変形を押さえる効果が得られるため、高速道路を走行する際にはタイヤの空気圧を高めに設定した方が良いと言われていました。
ですが、現在ではタイヤの性能が向上したため、無理に空気圧を高めに設定する必要はありません。高速道路へ入る予定がある際、空気を入れ直せば事足りるでしょう。
多くのタイヤメーカーは、自然に空気圧が下がってしまうことを考慮しても指定空気圧の10%程度とすることが望ましいとの見解を示しています。
例えば、指定気圧が220kPaなら高めに設定するとしても240kPaが上限ということです。普段から高めに設定することで空気を入れ直す頻度は少なくなるかもしれませんが、偏摩耗などによってタイヤの寿命が縮まることを考慮すると、こまめに空気圧を入れ直した方が経済的でしょう。最近ではガソリンスタンドやカー用品店にて、無料で空気入れ用のエアーコンプレッサーを借りることができます。
スタッドレスタイヤを装着して高速道路を走る場合は、どのようなルートを通るのか考慮して空気圧を設定しましょう。高速道路は山間部に多く通っているため市街地より気温が低くなりがちですが、高速走行するとそれだけタイヤも発熱するため、事前に設定する空気圧は普段の指定空気圧と同じで良いかもしれません。
ただし、高速道路を降りたのち、さらに険しい山間部へ入る場合には、空気圧を再度高めに設定した方が良いかもしれません。こればかりはケースバイケースですので、現地のカー用品店のスタッフに尋ねるなど、柔軟に対応したいものです。
まとめ
タイヤの空気圧を高めに設定した方が良い、というのは、大間違いではありませんが、あまり良くないと言えます。タイヤの空気圧を高めに設定することには確かにメリットもありますが、同時に多くのデメリットを生むことになります。
スタッドレスタイヤの場合は使用シーンによる温度差が大きくなるため、どのシーンで指定空気圧にできるか、ということを考慮して空気圧を設定しましょう。市街地では空気圧をやや高めに設定しておくことで、気温がぐっと低くなる山間部でベストなパフォーマンスを発揮できることもあります。
ただし、空気圧が高めのままになってしまうと制動距離が増加するため、せっかく装着しているスタッドレスタイヤの性能を十分に発揮できなくなってしまいます。
インチアップなどを行っていない限りは、指定空気圧に設定しましょう。インチアップを行ったり、純正以外のタイヤを装着したりしている場合も、カー用品店やガソリンスタンドといったタイヤの専門家に相談し、適切な空気圧を保つように心がけましょう。
自動車メーカーやタイヤメーカーは、安全性の向上に多くのリソースを費やしています。近年発生した交通事故における原因のうち、ドライバーの不注意によるものが大半を占めており、自動車そのもののトラブルに由来するものはとても少なくなっています。
また、自動車そのもののトラブルも、例えばタイヤの空気圧不足によるバーストなど、ドライバーが義務づけられている日常的な点検を怠ったために発生した例が多く見られます。
これらのことからも、車やタイヤの安全性は年々向上していることが分かるでしょう。自動車メーカーやタイヤメーカーの指定に従って、日頃から安全な運転を心がけましょう。